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第26回電子デバイス界面テクノロジー研究会(EDIT26)
筑波大学まとめ
半導体デバイス界面に関する研究会で、2021年1月22日~1月23日、Webex(口頭セッション)およびZOOM(ポスターセッション)によりオンラインで開催された。参加登録数142名、基調・招待講演14件、一般口頭講演11件、ポスター講演26件。オンライン開催で参加しやすかったためか、参加者数は現地開催であった昨年度のEDIT25より増加した。パワーデバイスに限らず、種々の半導体材料の界面物理を議論する研究会であるが、パワーエレクトロニクス関連では、SiCやGaNのMOS界面、金属/半導体界面に関する報告があった。
<主な発表>
① 9-1 (招待講演) ICとAIを用いたパワーデバイスの新たな価値創造(高宮先生,東大)
ナノエレクトロニクスの分野においては、近年AIチップ開発の話題が流行っており、当研究会においても、AIチップに関する講演が近年増えていた。今年度は、AIをパワーデバイスに応用するという内容について、東大の高宮教授のグループからの招待講演があった。講演において、著者らのグループがPower Electronics2.0と呼んでいる新しいパワーエレクトロニクスのパラダイムについて紹介された。その一例として、IGBTのMOSゲートに流すゲート電流を63段階で変化させる機能を持ったゲートドライバの実証例が紹介され、これを用いることで従来のアナログIPMでは想像できなかった効果が期待できると述べられた。AIにも用いられている「シミュレーテッド・アニーリング法」という最適解探索アルゴリズムを用いてIGBTのスイッチング波形の自動最適化が可能になったことなどが紹介された。このような自動最適化の導入により、スイッチング損失等を大幅に削減できることが分かり、IGBTのポテンシャルをさらに引き出すことができたとしている。
② 9-2 4H-SiC/SiO2界面構造に対する窒素アニーリングの影響に関する理論的検討(清水ら,三重大)
三重大のグループは、これまでにSiCをドライ酸化した際の酸素分子の挙動や、ドライ酸化で形成される界面欠陥を第一原理計算により解析してきた。今回は、SiC MOSFETの特性改善に広く用いられているNOアニールを行った際に、NO分子がどのような挙動を示すのかということと、ドライ酸化により形成された欠陥がどのように変化するかということを解析した結果について報告された。Si面に対しては、C-C結合が解離し、Si4-N(4つのSi-N)結合が形成されることが示された。一方、C面に対しては、C=C結合が解離し、Si3-N(3つのSi-N)結合が形成されるとともに、新たなC-C結合が形成される。このC-C結合は、さらに別のNO分子が反応することで除去される。したがって、C面はSi面よりも多くのNO分子が必要であるため、界面準位低減の効率が低くなると考察した。
③ 9-3 低仕事関数金属/4H-SiC界面におけるMIGSの影響(土井ら,名大)
仕事関数が低い金属を用いてSiCに対してオーミックコンタクトを取ることができるかどうかを検討するために、Y, Mg, Hfなどに対するMIGS(Metal Induced Gap State)の効果を調べた報告。Al, Mo, Niなどの比較的仕事関数が大きい金属の場合は、仕事関数とショットキー障壁高さが、ショットキー極限の直線に概ね乗っているが、低仕事関数のY, Mg, Hfの場合、直線関係から外れることを示した。これは、ショットキー障壁高さが界面準位の影響を受けるようになるためであり、ショットキー障壁の変調がMIGSによるものであることを裏付ける結果である。MIGSの影響を緩和するために、極薄Si3N4膜を金属/SiC界面に挿入したところ、障壁高さが低減されることが明らかとなった。MIGSを抑制することで、ショットキー障壁高さを低減する指針が得られたとしている。
④ P-19 界面欠陥を起因とする歪が誘起するSiC/SiO2界面の極浅欠陥準位(白石ら,名大)
著者らのグループがSiワイヤ単電子トランジスタの動作を説明するために提案してきた「歪み誘起量子井戸」の概念をSiC MOS界面に適用し、低チャネル移動度の理由を説明しようとした講演。SiCを熱酸化するとC-C結合が形成されるが、これ自体が準位となるのではなく、伝導帯下端を構成するNFE(Nearly Free Electron)状態の波動関数の振幅が存在する内包空間の形状がC-C結合を起源とする歪みによって変化するため、伝導帯下端のエネルギー準位の低下が起こる。それにより、60 meV程度の深さを持つ有効量子井戸が形成され、電子トラップとして働くことが示された。
⑤ P-20 SiC MOS反転層移動度の劣化要因に関する理論的考察(畠山ら,富山県立大)
SiC MOSFETのドリフト移動度の劣化原因を議論するために、散乱理論と自己無撞着計算によりチャネル移動度を理論的に導出し、これまでに報告されているチャネル移動度の実験結果が説明できるかどうか検証したという講演。まず、フォノン散乱移動度およびクーロン散乱移動度についての理論計算を行ったが、これらの要因だけでは実験結果をうまく説明することができなかった。そこで、ポテンシャルの到達距離が比較的長い双極子による散乱を新たに考えた。双極子散乱とフォノン散乱、ラフネス散乱を合成した移動度は、実験結果に類似した実効電界依存性を示すことが明らかとなった。双極子散乱の物理的実体が何であるかなど不明な点は多いが、双極子密度のみのシンプルな仮定のみで実験結果を説明できる可能性が示された。
⑥その他パワエレ材料関連の講演
- 7-1 ab initio計算を用いたGaN MOVPEにおけるTMG分解過程へのH2とNH3による効果の理論的考察(榊原ら,名大)
- P-21 金属/SiC界面のショットキーバリアの界面原子による変調: 第一原理計算による検討(西本ら,千葉大)
- P-22 Ba拡散法とNO窒化の組み合わせによる4H-SiC Si面MOSFETの電界効果移動度向上(関根ら,筑波大)
- P-23 水素ガスアニールにより生じるSiO2/GaN界面の異常な固定電荷の起源(溝端ら,阪大)
- P-24 第一原理計算による(Al2O3)1-x(SiO2)x/GaN界面の原子構造と電子構造の解明(長川ら,名大)
- 2021年2月13日
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