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セミナー「オープンリサーチによる環境エレクトロニクス研究と拠点化構想」の報告

 平成25年10月24日、第13回北九州学術研究都市産学官連携フェア(於:北九州学術研究都市)において開催されたセミナー「オープンリサーチによる環境エレクトロニクス研究と拠点化構想」(産業技術総合研究所、九州工業大学、北九州市主催)について報告する。北九州市は古くから製鉄業を中心としたものづくり文化が根付いており、北九州学術研究都市には多くの企業・大学が研究拠点を構えている。中でも、エネルギー利用効率化に関わる研究は重要テーマの一つとなっており、研究拠点化が着々と進んでいる。セミナー開催当日はあいにくの雨模様であったが、100名近い参加者が熱心な議論を繰り広げた。以下に、講演内容をまとめる。

 

(1) 大川 博己氏(北九州市産業経済局 担当理事)
  「三者連携による環境エレクトロニクス研究拠点化の取り組みについて」

産総研・北九州市・九州工業大学の三者による環境エレクトロニクスをテーマとした連携研究の取り組みについて紹介。

 

(2) 大村 一郎教授(九州工業大学 次世代パワーエレクトロニクス研究センター)
  「オープンリサーチによる環境エレクトロニクスの研究について」

省エネルギーの推進・自然エネルギーの活用などの観点から低炭素社会の実現に貢献するエレクトロニクス技術を「環境エレクトロニクス」と名付け、同技術に関わる研究開発を産学官連携で強力に推進する体制を整えるべく活動している。省エネは新しい電力供給源が生み出されるのと同じ効果があるが(ネガワット)、その普及にはコスト(ネガワットコスト)低減が不可欠である。パワーエレクトロニクス技術の導入は他のリニューアブルエネルギーと比較しても十分なコスト競争力があり、その普及が期待されている。ECPE(欧州)、CPES(米国)等の海外で先行する拠点作りにおいても地方都市を拠点とした研究体制が確立しており、北九州においても同様の拠点作りは十分可能であると考えている。

 

(3) 二宮 保主席研究員(公益財団法人 国際東アジア研究センター)
  「ICTネットワークにおけるグリーン電源システム」

スマートフォンの爆発的な普及もあり、ICT機器の消費電力は大幅に増加している。データセンタでの消費電力増大を根本的に解決する手法として、高電圧直流給電システム(HVDC)の導入が検討されている。絶縁型DC-DCコンバータの高電力密度化、及びSiCパワーデバイスを活用した直流電流遮断器の開発を二つの大きな課題として研究を進めている。

 

(4) 安部 征哉上級研究員(公益財団法人 国際東アジア研究センター)
  「ICT電源の高パワー密度化」

電力変換器の出力パワー密度はこの40年間で3桁高くなっており、今後もそのトレンドは維持されていくと考えてられている。その中で、ICT機器に用いられる絶縁型DC-DCコンバータの高パワー密度化に関する研究を進めており、1kW級フルブリッジコンバータにおいて効率97.5 %、パワー密度8.95 W/cm3、LLC電流共振型コンバータにおいて効率96.5 %、パワー密度13.4 W/cm3を達成した。更なる高効率化、高パワー密度化に向けて、スイッチング素子、受動部品の性能向上が望まれると共に、高パワー密度化に最適な回路方式の検討が必要である。

 

(5) 附田 正則上級研究員(公益財団法人 国際東アジア研究センター)
  「シリコン極限パワーデバイス」

最近Siパワーデバイスの性能限界が叫ばれているが、CMOSプロセス導入によるセルピッチの微細化やデバイス構造を工夫することで更なる低損失化が可能であることはシミュレーション結果からも確かめられている。現在、新しい横型Si-PiNダイオードによりSiC-SBDに近いレベルまでのスイッチング損失の低減を試みるとともに、CMOS並みの微細化による素子性能向上、及び低コスト化を目指した研究を進めている。

 

(6) 松本 聡教授(九州工業大学 電気電子工学研究系)
  「300℃動作に向けたシリコンパワーデバイス設計技術」

高温環境でパワーデバイスを活用したいという要求は非常に高いが、Si半導体では175℃~200℃が限界であると言われている。一方で、SOI技術等を活用することで実際は更なるTjmaxの高温化が可能であり、現在300℃動作の可能性を探っている。

 

(7) 渡邉 晃彦助教(九州工業大学 電気電子工学研究系)
  「パワーデバイス高信頼化に向けたリアルタイム評価技術」

パワーデバイス・モジュールの信頼性をリアルタイムで評価出来る技術の開発を進めている。動作中のパワーデバイスの温度を赤外線により高速・高空間分解能で観察するシステム、超音波により動作中のモジュール内部の破壊現象を観察するシステム、デバイス内部の電流分布をイメージングするシステム等、デバイスの破壊に繋がる現象をリアルタイムで評価出来るシステムを構築して、実際のデバイス・モジュールを対象に評価を進めている。

 

(8) 中島 昭主任研究員(産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門)
  「パワーデバイスの性能を引き出す統合設計技術」

SiCやGaN等の次世代パワーデバイスの能力を最大限引き出すためには、受動素子を含めた電力変換器システム全体の最適設計手法の確立が不可欠と考え、変換器設計シミュレータの開発を進めている。Siパワーデバイスは勿論のこと、SiC-MOSFET/JFET、GaN-HEMTの等価回路モデルを構築し、極めて精密な損失設計が可能となる設計シミュレータの構築に成功した。例えば、GaN-HEMTを用いた変換器設計では、精度93 %以上を達成しており、同技術の優位性を示すことができた。

 

 講演会終了後、ホワイエにてポスター発表会が催され、上記講演に関連したポスター展示と共に、超音波により動作中のモジュール内部の破壊現象をリアルタイムで観察する装置のデモ展示が行われたのが印象的であった。地方自治体が主体となった大規模な研究開発拠点整備の試みは非常に貴重であり、今回の試みがモデルケースとなって産学官連携の輪が日本中に広がっていくことを期待したい。

産業技術総合研究所
田中 保宣