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ECSCRM 2014 レポート

ECSCRM2014がフランス・グルノーブルで開催された。参加者は570名を超え、最新の成果発表、活発な議論が行われた。出席者の内訳は、産業界とアカデミアがそれぞれ4割、学生が2割とのことである。国別では、多い順に日本160名、フランス90名、アメリカ60名、ドイツ50名であった。(それぞれ概数。)中国から31名、韓国から19名、台湾から8名の参加があり、日本以外のアジアの国々からの参加が増えている。
 すべての分野を網羅することはできないが、研究が活発な分野、新しい成果についていくつか取り上げて紹介したい。

 

p型SiCバルク結晶

 SiC SBDやパワーMOSFETにはn型基板が用いられる。各社ともn型基板の大口径化、高品質化に力をいれている。p型基板は物性評価を目的とした基礎研究に使われる程度であった。一方、ここ数年電力インフラでの利用を想定した10kVを超える超高耐圧SiCバイポーラパワーデバイスの研究が進んでいる。nチャネルIGBTを作製するためには、低抵抗で高品質なp型SiC基板が必要となる。
 トヨタ自動車はSi-Cr溶液法によるSiCバルク成長に以前から取り組んでおり、高品質化や口径拡大を着実に進めてきたが、今回の発表(MO-P-01)ではSi-Cr-Al溶液によるp型SiCバルク成長を報告している。(Alをp型ドーパントとして利用。)抵抗率35mΩcmというn型ウエハーに近い値を、結晶性の劣化なしに実現した。さらにトヨタが報告している、n型バルク成長においてm面にバルク成長を行うことでc軸方向に走る転位のない結晶を得たのちに、その結晶からc面を切り出し、貫通転位のない結晶成長を行う技術をp型成長に試みた結果も報告している。100mm2の領域で貫通転位がゼロのp型SiC結晶の作製に成功している。低抵抗で高品質なp型SiCが作製可能なこの手法は、SiCバイポーラデバイス用基板として今後の展開が期待される。
 また、FUPET、産業技術総合研究所、名古屋大学、東北大学、日立化成のグループからも、Si-Cr溶液成長の発表があり(TU1-OR-04)、Alの添加により同じく35mΩcmのp型バルクが報告された。
 他に新日鐵住金と名古屋大学の共同研究としてSi-Al-Cu溶液を用いたバルク成長(MO-P-04)や、FUPET、産総研、デンソーの共同研究によるAlと同時に窒素のドーピングによりポリタイプ安定性を実現した昇華法によるバルク成長(MO-P-10)など、複数のグループからp型SiCバルク成長の報告があった。

 

ウエハの動向

 今回のECSCRMでは、昇華法6インチSiCウエハ上のエピなどの報告も多く行われており、6インチへの移行が進んでいる印象を受けた。ダウコーニングは6インチウエハの結晶欠陥の評価結果を報告しており(MO-P-02)、貫通らせん転位は同程度かむしろ少なく、BPDはやや多いものの103cm-2台前半になっていることを報告し、品質の向上が進んでいることをアピールしていた。
 昇華法において6インチの生産が進む一方で、ウエハの低コスト化を目指した研究も進んでいる。上述のp型バルクでも紹介したがSi系溶液成長がもっとも活発で、ドーピング、欠陥低減、それらのための結晶成長メカニズムなどに関する研究報告が行われた。
 もう一つの方法として、デバイス作製に用いられるCVD法を高温で高い成長速度を得る方法(高温CVD法)がある。FUPET、デンソー、電力中央研究所の共同研究で2.3mm/hという高い成長速度で直径75mm長さ54mmというサイズのバルク結晶の作製に成功したことを報告している(Mo-P-LN-08)。高温CVD法は高純度で残留不純物の非常に少ない結晶が得られ、また、ドーピングを制御して行えるという利点がある。
 別のアプローチとして、貼り合わせ基板のアプローチがある。SICOXSは昨年のICSCRMで、単結晶SiCの薄膜を多結晶SiC基板に転写した、貼り合わせ基板の報告を行っていた。貼り合わせ基板にホモエピタキシャル成長を行い、欠陥密度の評価や、ショットキーダイオードのリーク電流などの評価を行い、通常のSiC基板上と変わらない特性が得られることが報告していた。今回は、多結晶SiCと単結晶SiCの界面抵抗の低減について報告している。(Mo-P-50)単に貼り合わせただけの場合は、界面に電位障壁が形成され大きな抵抗となるが、貼り合わせ前にイオン注入による高濃度ドーピングを行うことで、トンネル効果により0.2mΩcm2以下に低抵抗化が可能であることを報告していた。

 

MOS界面へのBaの導入

 SiC MOSFETのオン抵抗低減のための課題の一つとして、SiO2/SiC MOS界面チャネル電子移動度の向上がある。通常の方法で作製したMOS界面移動度は10cm2/Vs程度となり、これはSiCバルク結晶中の電子移動度(1000cm2/Vs)と比べて非常に小さい。窒化処理が提案され、移動度を20cm2/Vs程度に向上可能であることが明らかになり、標準的な手法となっている。
 現在は、窒化処理の最適化により移動度の向上としきい値電圧の安定性、酸化膜の破壊耐性などをうまくバランスし、同時に、セルサイズを小さくしてMOSチャネルを集積化することで市販のSiC MOSFETが作製されている。1200VクラスではMOSチャネル抵抗がデバイス全体のオン抵抗に占める割合が大きく、移動度のさらなる向上が強く求められている。窒化処理の工夫や、酸化膜プロセスを工夫することや、窒素に変えてリン(P)を界面に導入するなど、さまざまな方法が検討されている。
 今回Creeから原子1層程度のバリウム(Ba)をMOS界面に導入することで、導入しない場合の移動度10cm2/Vsに対して85cm2/Vsという非常に大きな移動度の向上が可能であるという結果が報告された。(TU3-OR-05)V族やI族は検討されてきたが、これまでII族元素を導入するという発想はなかった。
 移動度と引き替えに他の特性劣化が心配されるが、Ba導入によるしきい値の安定性などの問題は見られず、分析により導入したBaはMOS界面付近に局在していることが示された。実際にこの手法でSiC MOSFETを試作し、オン抵抗の低減が可能であることも実証された。問題点は、Baの導入によりMOS界面の絶縁耐性についてばらつきが大きく、また、最も特性の良いものでも通常のMOSに比べて1~2割破壊電界が小さくなるということがある。今回新たに提案された手法でありBaの導入方法にもいろいろと工夫の余地があると考えられる。今後の研究が期待される。

 

超高耐圧デバイス

 電力ネットワークの高度化、低損失化のために超高耐圧パワーデバイスが求められている。Siでは実現不可能な10kV以上の超高耐圧SiCバイポーラデバイスの研究が活発化している。
 産業技術総合研究所、他からは、16kV耐圧のnチャネルSiC IGBTのデバイス特性評価の詳細が報告された。6.5kV、60Aの回路でスイッチング特性が室温から250℃までの範囲で測定された。(WE-P-70)京都大学からは、超高耐圧デバイスの耐圧設計をする基礎となる衝突電離係数の精密測定に関する発表があった。2種類の評価用素子を作製、比較することで、電子、正孔、それぞれについて高い精度で衝突電離係数の電界依存性を明らかにした。また、温度依存性も測定し、デバイスシミュレーションに利用可能なパラメーターが提示された。それを用いるとこれまでの超高耐圧SiCデバイスの耐圧の温度依存性などが良好に再現できることが示された。(TH3-OR-01)なお、上記の2件は、昨年度で完了した最先端研究開発支援プログラム(FIRST)「低炭素社会創世へ向けた炭化珪素革新パワーエレクトロニクスの研究開発」の成果である。
 米国ではCreeとアメリカ陸軍研究所の共同研究として世界最高となる27kV耐圧20A定格のnチャンネルSiC IGBTの報告が行われた。実際に、誘導負荷の14kVのスイッチング回路での評価を行い、3kHz以上のスイッチングが可能であることを実証している。(TH3-OR-02)MOSFETと比べるとIGBTはまだ試作段階であり、今後は、導通損失、スイッチング損失、耐圧などを両立しつつ性能向上を目指す研究がこれから本格化してゆくと考えられる。
 (ECSCRM 2014)
  2014 European Conference on Silicon Carbide & Related Materials
   開催日: 2014年9月21日(日)~25日(木)
   開催地: Grenoble, France