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国内外のニュース

先進パワー半導体分科会第1回講演会に参加して

(株)東芝 畠山哲夫

1. 学会情報

 学会名:応用物理学会先進パワー半導体分科会第1回講演会
 日時:2014年11月19日(水)~11月20日(木)
 場所:愛知県名古屋市ウインクあいち
 講演:口頭講演 15件、ポスター講演 100件

 

2. 講演会を振り返って

 応用物理学会のSiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会が昇格して先進パワー半導体分科会となり第1回講演会が11月19日(水)~20日(木)に開催された。
 まず、SiC材料の動向としては、SiC材料として6インチウェハが普及期に入ったことが挙げられる。9月に昭和電工からプレスリリースがあったが、6インチウェハへのエピの外販が本格化しているようである。欠陥密度や濃度分布など品質はまだ4インチに及ばないが、今後はSiCの6インチウェハ対応デバイス製造ラインが主流になるだろう。SiCパワーデバイスの需要が高まれば、いずれ8インチウェハの開発も視野に入ってくるのではないか。
 SiC/酸化膜界面の話題では東大の喜多先生のSiCの酸化反応を考慮したプロセス開発が今回の学会の重要な話題の一つになった。まだ、MOSFETを作成していないため、移動度が改善されたかどうかは不明であるが、SiC/酸化膜界面での酸化反応を推定して、圧力、温度範囲を調整していくことはSiC/酸化膜界面制御技術開発において有用であることは言うまでもない。講演では最初に前置きとしてMOS界面形成における酸化過程の重要性を主張していた。CVDでSiC上やSi上にSiO2を形成しても良い特性は得られないことから、界面で酸化反応を起こすことによって界面のひずみを緩和し、界面での接合を形成することの重要性を力説した点が印象的であった。
 さて、喜多先生の提示した実験結果は大きく分けて以下の二つである。1つ目は酸化反応で2つの活性化エネルギーがあるという実験結果である。この結果から大きい方の活性化エネルギーがCOを形成する反応とし、小さい方の活性化エネルギーに相当する反応をCが形成される反応として1300℃での高温酸化によりSiC/酸化膜界面を形成した。2つ目は高温酸化MOSを800℃で酸素アニールすることによってDit特性が改善されたという実験事実である。高温酸化で界面に形成された酸素欠損欠陥が酸素アニールにより修復されたと解釈している。800℃アニールでは喜多先生のSiCの酸化反応の推定によればC放出の反応が優勢になるので800℃で酸化が起これば特性は劣化するはずという疑問が生じる。この点で論理が錯綜しているので整理すると界面欠陥にはC起因のものと酸素欠損の2種類があり、高温酸化ではC起因の欠陥生成を抑制するが、酸素欠損起因のものは導入される。低温の酸素処理ではC起因の欠陥生成はされず、酸素欠損起因のものは修復されるということになる。800℃で酸化が全く進まないという設定は少々無理がある様に思える。ごく少量の低温酸化があっても界面には測定に検出できる量のC起因の欠陥が導入されるのではなかろうか。喜多先生のモデルが実験結果を説明しているかは検討の余地があると思う。MOSFETを同じMOS界面形成プロセスで形成し移動度向上が確認できれば、MOS界面形成プロセスに新しい方向性が見出されたことになる。続報を期待したい。
 東芝の末代氏の招待講演「SC(Schottky Controlled Injection)ダイオードの開発と将来展開」も面白い発表だった。現在のIGBTの主流となっているFS-IGBTの発明者は末代氏であり、そのFS-IGBTのウェハ裏面の低注入pコレクタのアイデアを応用したダイオードの提案である。高ライフタイム設計のため、熱特性がよい。注入をショットキーとオーミックコンタクト比でコントロールできるので、オン電圧とスイッチングロスのトレードオフを最適化できる。この構造はもちろんSiCの超高耐圧PiNダイオードへの適用も可能である。
 p-type低濃度エピのライフタイム向上も今回の研究会の重要なトピックであった。良く知られているようにn-typeエピにおける再結合ライフタイムは(Cイオン注入、もしくは熱酸化)+格子間炭素原子拡散アニールによって向上させることができる。一方、 p-typeエピに関しては格子間炭素の注入によってもライフタイムをn-typeエピの様には向上させることができなかった。本学会において、低濃度p-typeエピのライフタイム向上に関して2件の発表があった。
 1件目は京大の奥田氏による“熱酸化および水素熱処理による低濃度p型4H-SiCエピタキシャル層のキャリア寿命向上”と題する講演で、低濃度p型4H-SiCエピ層のライフタイム向上実験の結果の報告である。エピ成長直後のライフタイムが2.8μsであったのに対し、1400℃48時間の熱酸化(C空孔除去)で5.1μsに改善され、1000℃10分間の水素熱処理で更に10μsまで改善された。ライフタイム向上の原因はp型エピ層には炭素空孔の他に、ライフタイムキラーとなるP型固有の点欠陥があり、その欠陥は水素で不活性化されることによると推定している。GaNのp型化を実現した水素離脱によるドナー活性化の窒素アニールのいわば逆のプロセスを推定しており面白い。続報を期待したい。
 2件目は電中研の宮澤さんによる“超高耐圧pチャネルIGBT用4H-SiC厚膜エピウエハの作製と評価”と題する講演である。こちらの講演では水素アニールにライフタイム向上の効果をPiNダイオードの順方向特性で確認している。具体的には超高耐圧p-IGBT用の多層構造を有する4H-SiCエピウエハを作製し、p型エピ層をドリフト層とするpinダイオードを試作した。厚膜( >150μm)かつ低ドーピング密度(~2×1014cm-3)のp-ドリフト層のキャリア寿命を改善するため炭素イオン注入・熱処理と水素熱処理を実施し、低オン電圧化を達成した。水素処理によってライフタイムは2倍以上になる。順方向IV特性も水素処理によって、水素処理をしていないダイオードのIV特性と較べて傾きが急峻になる。気になったのがライフタイムの具体的な値が京大と電中研で異なることである。理由は色々あると推測するが、数字が異なると混乱するので、ライフタイム測定の標準化が必要である。
 SiC MOSFETに関しては産総研からのトレンチMOSFET(3kV耐圧)、住友電工からのV溝型MOSFET(1200V耐圧)、住友電工から3.3kV耐圧のプレーナーMOSFET(モジュール)、三菱から3.3kV耐圧の(プレーナー)MOSFET(モジュール)が発表された。トレンチMOSFET(耐圧3kVで6.8mΩcm2)やV溝型MOSFET(耐圧1.2kVで1.7mΩcm2)のオン抵抗の小ささが際立っている。

 

 最後に、先進パワー半導体研究会講演会は2日間の短い学会であるが、口頭講演、ポスター講演共に内容が凝縮されており、運営のよさもあって、非常に効率よく国内のSiC研究関連の情報に幅広く触れることができた。今回の講演会の運営に携わった方々には深く感謝したい。