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SiCに関する技術情報

絶縁破壊電界強度のドーピング密度依存性


なだれ(アバランシェ)破壊による絶縁破壊電圧は、簡易的には、空乏層内の最大電界強度が絶縁破壊電界強度に達するという条件で計算される。絶縁破壊電界強度は材料に依存し、Siの場合、0.3 MV/cm、SiCの場合2.4~2.8 MV/cmがよく使われている。しかし、この方法は近似計算であって、厳密には正しくない。
本来、絶縁破壊電圧は、衝突電離(インパクトイオン化)係数の電界依存性と空乏層内の電界強度分布からなだれ増倍率を計算し、それが無限大(なだれ破壊)となる電圧を求める必要がある。しかし、これは、数値積分を行わなければならず不便である。
両者の中間的な方法として、次のような方法がある。ノンパンチスルーのp+n接合を仮定し、それぞれのドリフト層ドーピング密度について上記の厳密な絶縁破壊電圧の計算を行う。次に、絶縁破壊時の空乏層内での最大電界強度を求め、ドリフト層のドーピング密度と最大電界強度の対応の経験式を得る。得られた(ドーピング密度依存性をもつ)絶縁破壊電界強度を使って上記の簡易計算に用いるという方法である。
Konstantinovらは4H-SiCフォトダイオード構造を用いて、光電流のなだれ増倍率を詳細に測定することで、衝突電離係数の電界依存性を求め、その結果を用いて、上記の計算を行い、絶縁破壊電界強度(Ecrit)のドーピング密度(N)依存性を求めている。[1]
  『絶縁破壊電界強度のドーピング密度依存性』の画像
1200V耐圧の場合は、ドーピング密度は1016cm-3程度となり上記の式で絶縁破壊電界強度は2.5 MV/cmであり、SiCでよく言われている絶縁破壊電界強度となる。一方20kV耐圧の場合は、ドーピング密度は1014cm-3程度となり、絶縁破壊電界強度は1.7MV/cmと小さくなる。(ただし、彼らのデーターは数kV程度までを想定したものであり、高耐圧側のデーターは今後詳細な評価が必要。)
ドーピング密度依存性を考慮した絶縁破壊電界強度を使用して絶縁破壊電圧を見積もれば、より近似の精度は向上するが、パンチスルーのp+nn+構造や、接合終端構造などの複雑な構造では電界分布はノンパンチスルーのp+n接合と大きく異なるので、あくまでも近似にすぎないことに注意が必要である。さらに言えば、衝突電離係数の結晶方位依存性も考慮する必要がある。
[1] A. O. Konstantinov, Q. Wahab, N. Nordell, and U. Lindefelt, Journal of Electronic Materials, Vol. 27, No. 4, 1998 pp. 335-341.

(須田 淳)