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ICSCRM 2011報告


独立行政法人産業技術総合研究所
先進パワーエレクトロニクス研究センター
清水 肇

 

1.会議の概要

 ニュルンベルグ、オスロに続いて上記の会議に参加した。前2回のヨーロッパでの開催に比べた印象は、(i)アメリカ的なものを、(ii)そのためか研究開発の軸足がパワエレの出口領域でも活発化を感じ、その辺りを纏めてみたい。投稿論文数は400件、参加者は約600名とのことなので、前回のICSCRM 09とはほぼ同じであろう。セッションでの印象は結晶、ウェハ、エピ、プロセスに関して引き続き活発であったが、新しい話題と言うよりは、デバイスの信頼性との関係に視点を置いた詳細な研究が増えた。また、応用サイドから入ったデバイス、回路、実装などの研究も目立ってきた。前回ニュルンベルグで初めて設けられたグラフェンのセッション数、講演件数も増えた。

 応用に関してアメリカからの積極的な発表があり、特にエネルギー分野ではスマートグリッド、自然エネルギー利用、宇宙、資源開発と関連したデバイス、センサー、回路の発表が散見された。筆者の偏った印象かもしれないが、(i)主催者のNASA始め、Naval Research LabなどDoD、DoE傘下の研究所からの報告、(ii)耐圧15kV程度のIGBTなど多様な高耐圧デバイスが共同研究相手先のCree他から発表された。アメリカに続く参加者2位の日本からも多様な発表があった。

2.ウェハ、エピ

 インゴット、ウェハに関しては欠陥、転位の研究、プロセスとの関係、エピ層を使って基板貫通転位の変換など従来型の研究に加え、デバイスの信頼性との相関に踏み込んだ詳細な話題が増えてきた。特に、MOS界面の性質と移動度向上や信頼性との関係、それを確実にする酸化プロセスの研究は確実に進んでいる。ウェハでは、毎回参加者の注目の的である6インチ化の話題は、Creeを筆頭に新日鐵も実物展示、他社も開発準備状況をアナウンスしていた。マイクロパイプ密度は各社ともほぼ目標通りデバイス品質レベルに達しているが、欠陥情報の詳細は各社あまり明らかにしていない。CreeもLED用にビジネスを考えている節があり、パワエレ用としての本当の技術競争、それに勝つためのビジネス戦略は各社様子見という感じがする。その中で、Dow Corningが4インチの増産に向けて体制を整えると言ったことをちらつかせていた。ダイオードの信頼性が高まり、Si:IGBTとのハイブリッド回路で変換器に応用する市場が今後活発になると考えられ、安価で品質を伴った量的安定供給に対するデバイスサイドからの要請は強くなるだろう。一方、従来設備の活用の観点からは6インチへの要請も強まるであろうから、4インチ並びに6インチのウェハのグローバルビジネスがどう展開するかを見守りたい。

3.デバイス

 ダイオードについては既に多様な仕様のデバイスが入手出来る段階で、多くの発表はあったがとりわけ目立つ点もなかった。Infinionから図1に模式的に示した、基板のオン抵抗を下げるためプロセス後に背面から基板を削り電極を取り付ける技術が報告され、デバイスを近々市場に出すとのことであった。この技術は、300μmの基板を110μm程度の薄さまで削るので、抵抗の減少分だけチップ面積を小さく出来る。筆者は詳しくないが、シリコンデバイスでも使われている技術の様で、どの段階でプロセスを取り入れているかは明らかにせず、厚さ限界はクラックの発生と答えていた。95%の歩留まりで実用化したのはInfinionならではの技術ポテンシャルであろう(関連Tu-P-21)。

『『ICSCRM 2011報告01』の画像』の画像

 図1

 デバイスを中心にした招待講演が、InfinionのRuppから"SiC Base Material:Joy and Sorrow of SiC Device Manufacturer"(Fr-2-1)、Cree Palmourから"SiC Power Device for Energy Efficiency"(Fr-2-2)と題して行われた。前者に関して、内容的には馴染みの方も多いと思われるが、筆者には結晶、ウェハの石器時代からデバイスに向けたR&Dにおける苦労と、ダイオードを完成しSi:IGBTとのハイブリッド回路普及のきっかけが見いだされたことで、図2に示すように2009年以降右上がりのビジネストレンドに乗れ、トンネルの先に明かりが見えてきたと言う感慨深げに語る話は興味深かかった。

 

『ICSCRM 2011報告02』の画像

図2 インフィニオンの売上実績推移

 後者については、スイッチング素子のCreeにおける歴史の紹介でもあった。様々なタイプのMOSFETの歴史的なおさらいに始まり、オン抵抗を小さくするためのトレンチとしてのV構造、U構造デバイス、DIMOSなどの話があった。また。移動度に寄与する酸化膜界面の特性改善、信頼性に関わる劣化メカニズムの研究などもきっちりやっているとの紹介も行った。界面問題に起因する信頼性に関して、ワイブルプロットに基づく寿命の評価で" 0.4 Billion Year"と長期展望を示した。これはデバイスの統計的評価で、中にはかなり早く討ち死にするデバイスも相当多数あり、市場ではまだ受け入れられないチャンピンデータであろう。また、RT~240℃、>240℃では劣化の活性化エネルギーが異なるスロープを示すことから、メカニズムの違いが示唆された(関連発表Th-2A-3)。最後に、SiCダイオードが、すでに$2Billionの省エネ全世界で達成し、火力発電所8基を不要にした実力であると述べた。前者の講演がSiC研究開発の石器時代から新石器時代、後者はGreen Innovationへの貢献を半定量的にうたった。Creeが今後デバイスに重きを置いてビジネスをするとは考えられないが、共同研究を通じてSiCパワーエレクトロニクスが社会貢献するとアッピールをし、ウェハビジネス分野での第一人者であることを印象づけていた。 4.パワエレ施策とシステムと連携した研究展開  Si:IGBTとの組み合わせによるSiCダイオードの出番は当分続くと思われる。その考え方の合理性はSi:IGBTの性能、コストや信頼性を含めたデバイスの実力である。勿論、All-SiCに対する期待は大きく、多様な発表はあった。スイッチングデバイスの貢献として、高温環境でのSiCの活用や高周波化によるパッシブデバイス等の小型化によるモジュールの小型化(W/cc、W/gなど)や、それに伴う部品の低コスト化(W/$)といった点への期待である。シリコンパワーエレクトロニクスの限界への挑戦の中で、エネルギー効率向上(導通損失やスイッチング損失)はさらに先に進めなければならない。そういった意味で"SiCならでは(筆者は付加価値と呼ぶが)"に対するR&D側からの主張、ユーザ側からの要請と言った相互理解、すりあわせは今後、市場や産業育成の視点で益々重要になると思われ、日本に於いても議論を活発化させる必要がある。

 

『ICSCRM 2011報告03』の画像

図3 ARPA-Eの設立背景

 システムとの連携については、数件の招待講演を振り返りながら述べてみたい。初日にARPA-E(Advanced Research Projects Agency-Energy)のR. Ramより"Stimulating Clean Energy Innovation: The Role of Wide Band Gap Semiconductors"という講演があった。この組織は、米国アカデミー(National Academies)が2006年に図3に示した"Rising Above the Gathering Storm"と題した、イノベーションを惹起するレポートに基づき計画された。DoEに所属し設立は2007年の8月に許可された(America COMPETES ACT.)ものの当時は予算がなく、2009年にAmerican Recovery and Reinvestment Act (Recovery Act) (http://arpa-e.energy.gov/LinkClick.aspx?fileticket=yKQkGDDR3b4%3d&tabid=165)でオバマ大統領直々の宣言で4億ドルの予算がついた。Director-Generalは大統領直の任命である。自然エネルギー、パワーデバイス、二次電池など多数のプロジェクトがホームページ(http://arpa-e.energy.gov/ProgramsProjects/Programs.aspx)にリストアップされていて、SiCに関するテーマも探ることが出来る。筆者はまだ勉強していないが、研究テーマの理解だけでなく、エネルギー政策の中でのワイドバンドギャップ半導体の位置づけや、具体的貢献への目標、R&D資源の配分の議論など参考にしてみたい。

 Program DirectorはNSFなどを例にすると政策、予算的にも相当な責任と権限があり、この組織でも同様であろうか。なお、Ram氏は光学、化合物半導体の専門家で、HP、MITを経て現職に就いた経歴の持ち主である。講演では、ARPA-Eの役割や、電気エネルギーの高効率利用の問題解決とパワーエレクトロニクスの必要性を序論として述べていた。定番であるが、IT機器システムの中の配電系、自然エネルギー等におけるAC/DC、DC/DC、DC/AC各種変換器の紹介や、また損失低減のためにワイドギャップ半導体(SiC、GaN)の有用性を一通り紹介した。

 個別のプロジェクト名は言及しなかったが、Oak Ridge国立研と車用のGaN on Si(600V級)デバイスによる水冷パワーモジュールにより、Si:IGBTに比較して50%のロス低減の実現。プラグインHEV/EV用の次世代SiC高周波充電設備(1200V、20A SiC:MOSFET)の開発。このスライドには"Toyota"の名前、プリウスが示されていた。我が国でも、SiCプロジェクトフォーメイションに際して、SiCインバータ普及に対する利点の定量的な議論などを調査研究として行ってきた。今後、各種のデバイス、変換器技術、回路技術などの研究が進展し市販デバイスが普及する中で、またSiパワエレの市場動向を見た上で、我が国のSiCパワエレの強い分野、標準化政策なども視野に入れて、パワエレ産業育成や社会貢献への戦略のバージョンアップも必要であろう。

 DoD、DoEなどの共同研究から数件拾ってみる。サイリスタ、GTO、FET、IGBTなどのデバイスが論文タイトルで見られた。パルスパワーの応用にサイリスターが何件か取り上げられていた。各種デバイスは、Siパワーエレクトロニクスの研究開発で取り上げられ、次第にIGBTにおきかわってきた経緯がある。デバイス物理はSiパワエレ素子とほぼ類似しているなら様々の構造はいずれ集約するであろうか。一方、SiCならではの特性(耐圧、電流、スイッチング特性など)が引き出せる可能性や特定の応用分野に適しているならば今後も多用なデバイスが研究されるという指摘もある。ただ、制御回路のことを考えると電圧駆動のデバイスとしてMOSFETやIGBTが主体になるかもしれない。大きな流れとしては、厳しい界面問題を抱えつつもMOSFETの利用、IGBT構造へのチャレンジにSiCパワエレの軸足が徐々に移りつつあることも感じた。ただ、MOS面の問題の解決(初期故障や偶発故障は別にして耐用寿命の向上)には時間がかかるかもしれないが、かつて、MOSFETには懐疑的だった、Chowも70%ぐらいの進展だとも評価し元気の出る話である。当分は、市場に出回るスイッチングデバイスとして、ノーマリオン型(回路技術でノーマリオフも)のデバイスであり制御回路の複雑さと言った使い勝手にはやや難もあるが、JFETの出番も続くであろう。

 以下は、主として高耐圧デバイスに関連した論文名で、かっこ内に研究組織を記入した。

  • Mo-3A-3"High-Temperature Performance of 1200V,200A 4H-SiCMOSFETS"(Cree, U.S.Army)
  • Tu-P-20 "Performance of 25kW700V Galvanically Isolated Bidirectional DC-DC Converter Using 1.2kV Silicon Carbide MOSFETs and Schottky Diode "(Pergrine power LLC):ソフトスイッチング回路の採用
  • Tu-P-81 "10kV SiC Power MOSFET and JBDiodes"(Cree,GE)
  • Fr-1A-4 "Developmento of 15kV 4H-SiCIGBT"(Cree)
  • Fr-1A-5 "Fabrication and Characterization of 4H-SiC 6kVGate Turn off Thirister"(Rutgers Univ.)
  • Fr-1A-2 "12kV,1 cm2SiC Gate Turen -Off Thyristers with Negative Bevel Termination"(Cree, Army Research)

 Tu-P-81について、システムサイドからの評価も交えて紹介したい。この研究は、ICSCRM 11の後開かれたECCE 2011でも発表され、そちらのプロシーディングスから補完するデータも得たので合わせて報告する。CreeのSiCデバイスを使いGEとの共同研究で、10kV、120AのオールSiCパワーモジュールの作製を試みた。ダイオードもMOSもマイクロパイプ密度は<1個cm-2の4インチウェハに120μm厚のエピ層を形成し、ドープ量は6×1014cm-3であった。MOSFETは二重インプラのセル構造でチップ面積は8.1mm×8.1mmでスイッチングデバイスとしては最大のものである。ベアデバイスは、歩留まりは55%で、この耐圧から考えると高いかと思われる。また、SBDの歩留まりは65%とのことである。

 

『ICSCRM 2011報告04』の画像

  図4

図4は10kV、120Aのパワーモジュールで、12個のSiC MOSFETと6個のJBSダイオードから構成されている。スケールは残念ながら記入されていない。このモジュールをSiスイッチング素子(IGBT)と比較して、各周波数のロス(スイッチングロス)の比較を表1に示した。放熱限界から、Siでは500Hzでの運転の想定に対しSiCは500Hz以上で特色が現れ、20kHzの稼動を可能にし、導通損と併せて260W/cm2に収まっている。また、導通損はSiとSiCでそれぞれ182W/cm2、100W/cm2であった。動作温度150℃に対して、1000時間の実績結果を得、今回のパワーモジュールは1.2MWであるので、ビルディングブロックとして、高耐圧領域のMWクラスで高周波動作の展望が開けたとも述べた。図1に示す電源システムへの組み込みについて写真が何度か示された。その結果、60Hz動作のトランスに対して、サイズ1/2、重量1/4といったメリットに言及していた。

 

『ICSCRM 2011報告05』の画像

表1

『ICSCRM 2011報告06』の画像

図5

 最後に、高温応用を想定した高パワー密度モジュールの次世代パワーエレクトロニクスプロジェクトの成果を紹介する。SiCは高温環境を使える利点と、導通損失とスイッチング損失が少ないので熱設計の立場から高周波化、高密度化が期待できる。

 FUPETの松井ほかは600V-60A-40W/ccオールSiCインバータを作製した(We-P-74、関連Tu-P-23、We-P-12)。SiC SBDとSiC JFETを用いTjを200℃に想定した。関連するキャパシターも高温対応のほか、回路浮遊容量も通常の半分以下5nHに抑えたことなどがポイントで、おそらく世界最高の40W/ccの値を得た。変換器を作製する上で、効率、W/ccコストなどの指標はそれぞれ技術課題であると同時に、場合によってはトレードオフの関係にあり、応用によってそのバランスは重用である。W/ccの指標は、直接の電気エネルギー利用向上はもとより、たとえば車両パワエレ系の電源で空間の有効活用や車両重量軽減などにも寄与する重要な指標である。

『ICSCRM 2011報告07』の画像

図6

5.おわりに

 ICSCRMは14回目を迎えた歴史ある会議で、今、電気エネルギー有効利用がグローバルに追究されている環境の中で先見性を示してきたと言える。一方、社会基盤への有効性を示すには、デバイス、回路技術、モジュール化などのエンジニアリングが重要になってくる。冒頭に述べた軸足がシフトして来ているし、パワエレを主体にした会議も盛んになってくるであろう。エネルギー政策を担うARPA-Eの役割もおぼろげながら理解できた。NEDOプロジェクトを担う中でSiC関連産業、広くパワエレ産業の育成について考えてゆきたい。