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ICSCRM 2013 報告

茨城大学 菅原良孝
(2013年10月22日)

今回の参加者数は794名にも及び、しかも海外からの参加者が419名であり日本の参加者を上まわっているのは驚きであった。米国の参加者が63名と少ないのは、Cree や米国大学の知人によると、米国の財政問題のために政府機関の研究者や関連者が全く参加できなかったためとのことであった。そのかわりに、アジアからの参加者が増加し、韓国43名、中国20名、台湾19名であり米国参加者の減少を補ったと思われる。
 以下、私が担当の技術範囲に関して、プレナリー招待講演、高耐圧SiCデバイス、パッケージ&応用の順に順次報告する。

1、プレナリー招待講演

  1. 三菱電機の K.Kyuma 氏の講演
    CSTP(総合科学技術会議)で纏めた持続可能な社会のための5つのグランドポリシーがかいつまんで紹介され、クリーンで経済的なエネルギーシステムの実現方策が、生産、消費、配分の3つのカテゴリーに注目して述べられた。このシステムの実現のためにはワイドバンドギャップ半導体の活用が期待されるとして、三菱電機の電力損失低減の開発例、11kWのインバータモジュール、540kWの鉄道インバータシステム、50kVA/リットルの高電力密度のインバータが紹介された。今後SiCパワー素子の多方面への適用に当たっては、この性能改善に加えて信頼性や経済性の改善が要求されると結んでいる。
     CSTPの国家的立場での活動と具体的な指針の提示を期待し拝聴した。持続可能な社会のためにはどの程度のクリーンで経済的なエネルギーシステムを目標とすべきかという定量的考察や、紹介された開発例が上記目標に対してどのような位置づけとなりどの程度の効果をもつのかという点には触れられていなかった。今後ぜひ拝聴する機会を持たせていただきたいものである。

  2. レンセラー大学の T.P.Chow 教授
     SiCとGaNの最近の開発進展状況と現時点での課題が報告された。
     
    (1) ショットキーダイオードは、SiCでは現在定格電圧1.2kV、定格電流50Aクラスまでが市販されている。GaNショットキーダイオードの市版ももうじきであるが、コストメリットを持てることが強く要求されている。SiCトランジスタは定格1.2kVまで市販されており、GaN-パワーHEMT(基板はSi)は600Vまでがほとんど入手できる。SiCバイポーラデバイスは20kVを上まわる耐圧が報告されているが市場では入手できない。GaNは10kV素子が開発されており、600V縦型パワートランジスタ(基板はSi)は市場で入手でき始めている。
     
    (2) 最新の開発例として、LED内蔵のGAN-HEMT、SiC光サイリスタ、p-AlGaNカスコード型HEMTなどが紹介された。1kV以下ではGaN、10kV以上ではSiCが有利であり、その間は両者が競合するというのが彼の見解である。
     カスコード型HEMTは興味深いが寄生インダクタンスやコンデンサに起因する問題がかなり深刻になると思われる。
     
    (3) 現時点での4H-SiCの技術的障害は、大口径・低欠陥密度・低不純物濃度(<1015cm-3)の基板、MOS閾値電圧制御、チャネル移動度向上、ゲート酸化膜の信頼性向上、更に 少数キャリア寿命の増大などである。GaNパワーデバイスの技術的障害は、閾値電圧制御・アバランシェ降伏の持続性・破壊電流の向上、バッファー層のリーク電流の最小化、低コスト・大口径・少欠陥基板などである。
     
    (4) 今後の応用展開に当たっては、SiCおよびGaN個別デバイスの耐圧と電流容量を引き続き増大する必要があるが、これらのパワーデバイスとCMOS混成信号・高周波増幅・ホトニクス・センサー等のデバイスや回路とのモノリシック集積化が、機能性やコストメリットの増大を達成してゆくであろうと指摘している。

  3. 鉄道総研(RTRI)の T.Uzuka 氏の講演
     高速鉄道の普及および技術の進展経過、高速鉄道におけるSiCデバイスへの期待と課題が紹介された。以下、要点を順次記す。
     
    (1) 時速200km以上の高速鉄道は1964年の日本の新幹線に始まり、それ以降フランス、ドイツ、イタリアが1980年代に追随した。次いで、2000年代になって韓国、台湾、中国での高速鉄道の構築が進められ、2013年現在では高速鉄道の全長は20,700kmを超えている。
     
    (2) 最初の新幹線の高速鉄道技術は、トランスのタップ切り替えにより電圧制御した交流をSiダイオードブリッジで整流しDCモータを回す方式であった。その後、交流を直流に変換した後にGTOを用いてPWM制御により交流に再変換してシンクロナスモーターを回す方式となった。昀近はGTOの代わりにIGBTを用いており、これにより、PWM制御のキャリア周波数を高くできEMCノイズを大幅に低減できている。1機関車当りの電力変換用のコンバータの容量は10~20MVAであるが、半導体技術の進歩で大幅な低損失・小型化ができていることが定量的に示された。
     
    (3) 高速鉄道用電力変換装置の更なる低損失・小型化・軽量化のために、SiデバイスにかわりSiCデバイスが注目されている。鉄道関係でみると、SiC-SBDを用いて300kW級インバータの損失を30%程度低減できることが三菱電機、日立、東芝から発表されている。列車の床下の限定されたスペースに全パワー部品が搭載されなければならないのでデバイスに加えてパッケージや冷却も重要であり、コストも含めたトールバランスが考慮されなければならないことが強調された。
     
    (4) 討論において、建設計画中の磁気浮上列車におけるSiCデバイスの活用について質問がなされたが、既存の技術で対応できるとしコストが問題であるとの保守的な返答であった。7年ほど前の私も加わった電気学会・鉄道研究会でも同様の議論をしたことがあったが、列車本体はともかく地上電気設備の低損失化・小型化にはSiCデバイスの活用効果がかなり期待できるとの見方をしたはずである。

2.高耐圧SiCデバイス

(1) 10件の口頭発表がなされた。オーバービュが1件、ダイオード関係が6件、IGBTが1件、サイリスタが2件である。日本からの発表はダイオード関係の4件であった。

(2) オーバービューは CREE からの講演であり、今回のICSCRMにおける CREE が関係する高耐圧SiCデバイスの講演の概要の紹介が主であった。従って、内容は以下の各デバイスの項目で紹介することとする。

(3) ダイオード関係では、京大から2件の発表があった。1件目は、世界最高耐圧の26.9kV SiC-pnダイオードの試作結果の発表である。100A/cm2でのVfは5.90Vであり、電流立ち上がり後のRonS( diff)は19.2mΩcm2である。

 2件目は、イオン化係数の温度依存性の詳細な測定結果であり、これを用いたSiC-pnダイオード耐圧の計算値は Mitlehner 氏等の計算値に比べて実験値とほぼ一致しており、高く評価できる。
 関西電力、産総研、富士電機から13kV 20AのSiC-pnダイオードの逆回復特性と少数キャリア寿命の温度依存性の発表がなされた。ドリフト領域が厚い高耐圧ダイオードにおいては、高電圧で且つ高速スイッチング下での逆回復特性の測定・解析が必要なことを指摘し、電圧5kVでの高速測定を実施している。その結果、従来報告されているようにSiC-pnダイオードの逆回復時間と逆回復電荷が小さいことを確認している。

 スエーデンのKTHとリンチョピン大共同開発により、オンアクシス4H-SiC結晶を用いた10kV級SiC-pnダイオードの試作結果が発表された。室温で100A/cm2でのVfが3.3Vとトップレベルの性能を達成している。肝心の予稿集で示唆していたVf劣化に関しては発表がなかった。セッション終了後に質問したら目下評価中で次回に発表したいとのことであった。
 3.3kV級では、三菱電機からSiCデバイス用のVLD (Variation of Lateral Doping)ターミネーションが発表された。光の透過率を単調変化させたハーフトーンマスクを用いることにより厚さを接合端から接合に向かって漸減させたレジスト膜を形成した後に、Alイオン打込みを行い、接合に向かってドーズ量を3x1012から1.4x1013cm-2に漸増させたターミネーションを形成できた。これを用いて耐圧4kVのSBDを試作した。歩留まりが気になるが、プロセスの簡略化による量産性の向上を期待したい。

 ABBとスペインのCNMは共同で3.3kV級4H-SiCショットキーダイオードの構造検討結果を発表した。活性領域の構造がJBS構造とトレンチメタルバリア構造の場合について比較検討し、ワークファンクションの大きい金をショットキーバリアメタルもしくはトレンチメタルに用いるとTiやWを用いたJBSに比べてリーク電流とJfの相反関係を改善できることを示した。また、ターミネーションはガードリングを内蔵するJTEとフィールドプレートの組合せ構造の場合、最も耐圧を向上できることを示した。

(4) IGBTは CREE からの発表であり、20kVの1cmx1cmサイズの高耐圧n型IGBTで、20Aでのオン電圧6.5Vを達成している。立ち上がり後のRonS( diff)は48mΩcm2である。同等のnIGBT(耐圧19kV?)では、125℃でのターンオフ時間が2.25μs、Eoffが28.2mJである。FSバッファー層を5μmと厚くすることにより、Eoffを1/2に低損失化できることを報告している。

 20kVの世界最高耐圧を達成した点、FSバッファー層の適正化によりEoffを1/2に低損失化できることを明らかにした点が評価できる。

(5) サイリスタ2件のうちの1件は、ロシアの Ioffe 研究所とCREEの共同開発による12kV・1300Aの光点孤サイリスタである。一段増幅で最大通電電流1320Aを達成している。一段目のサイリスタの発熱が限界に近く、更なる大電流化を図るには多段増幅構造にする必要があることを明らかにした点が評価できる。

 もう1件は米国FREEDMと CREE の共同開発による13kV級SiC・GTOである。100A・400℃でのオン電圧は3.6V、電流立ち上がり後のRonS( diff)は4.7mΩcm2であり、SiC-IGBTに比べて格段に低い値を達成している。但しターンオフ時間は50Aで260μsと長くEoffは180mJであるが、FID(Fault Isolation Device)のような事故時の交流電流遮断装置としての用途には好適であり、オン時の低損失効果を享受でき、且つ軽量化と構成のシンプル化のメリットも享受できる。更に、本SiC・GTOを用いて50A級のFID装置をすでに開発していることが高く評価できる。

3.パッケージ&応用

 5件の口頭発表がなされた。オーバービューが 1件、パッケージとモジュール技術が各1件ずつの計2件、応用は家電関係と電気自動車関係が各1件ずつの計2件である。

(1) オーバービュー

(1) オーバービューはインフィニオンからの講演である。SiCのコスト低減には電流密度の増加によるチップサイズの低減が肝要であるが、それに伴うチップの電力損失の抑制が必要となる。

(2) 最近の650V級SiCダイオードでは600A/cm2の電流密度が達成され、ウエーハの薄厚化技術等により定格電流での順電圧降下Vfも抑制された。ショットキーダイオードではバリアハイトの低減が効果的だが、漏れ電流とのトレードオフを考慮しなければならない。チップ薄厚化技術によるチップ体積の抑制は熱抵抗の低減にも効果があるが、サージパルス動作には不利となる。

(3) 電流密度の増加により伝統的なワイヤボンド技術ではワイヤの電流許容量やパワーサイクリング安定性が影響を受ける。熱流路の最適化により必要熱容量を確保する技術開発が取り組まれている。

(4) 市版1200V級MOSFETのRonSは6mΩcm2に達しており、600V級MOSFETでは1mΩcm2以下の値が見込まれており、定格電流に対応するチップサイズを大幅に縮小できる。しかし、これらの低いRonSにみあう電流密度の増加は伝統的な実装では取り扱うことができない。チップサイズやチップ厚さの縮小が短時間熱上昇に対する熱容量を損ねるために、パルス電流容量、アバランシェ定格、短絡容量等に悪影響を及ぼす。

(5) SiCトランジスタのpn内蔵ボディダイオードの活用には、適正熱設計のためにそのVfを3V以下にする必要がある。同期整流のように短いデッドタイム後にチャネルを開くような場合は内蔵ボディダイオードの損失はSiCトランジスタの順方向損失と同等以下に低減することが強要される。埼玉大学の論文ではその改良法が示されている。

(6) 熱抵抗Rthはチップのダイサイズに非線形的に依存し増加する。空冷実装の場合、ケースと空気間の熱抵抗Rthc-aは接合とケース間の熱抵抗Rthj-aよりも大幅(例えば5.5倍)に大きいために、Rthj-aのドラマチックな改善ができてもトータルのRthの大幅低減はできず、電流密度の増加には限界がある。
 単なるセッション内論文の紹介に終始せず、SiCの電力密度増加という観点から首尾一貫した論理展開をしており、優れた講演であった。

(2) パッケージおよびモジュール技術

(1) 早稲田大学からSiCパワーデバイスの新高耐熱パッケージングに関する発表がなされた。Niの微細電気メッキによりリードフレームへのチップのダイボンデングとチップ電極とCuリードの接続とを同時にするものである。Alアノード電極とAgカソード電極をもつ2.7mm角の1200V/15A級SiC-SBDチップでパッケージング実験をおこない、断面観察によりAlアノード電極とCuリードとの間がNiでコーティングできていることを観察している。別途、リードフレームにチップをダイボンデングする模擬試験によりNiメッキ層とチップおよびリードとが接続できることも実証できている。ホットプレートで300℃まで加熱して測定した結果、正常な順方向特性が測定され高温でも劣化がないことを見出し、300℃での高耐熱動作を実現したとしている。
 信頼性の点から検討すべき事項がまだ多々あると考えられるが、成功時の大きな量産効果と経済効果が期待される。

(2) ロームからモジュール実装用の高信頼性Agシンタリング技術が発表された。現在の半田が200℃以上の高温では適用困難であることやAlワイヤが熱衝撃で破壊し易いという問題点があり、その対処策として。高いせん断強度を持つシンタードAgが注目されているが、高温動作での信頼性の検証が不十分な現状である。
 本発表では、AgメッキCu基板にSiCチップを実装するボイドフリー新実装プロセスを開発し、マルチチップの量産実装に適することを実証した。実装時の印加圧力のタイミングと温度が高温動作の信頼性に影響しボイドフリー接続層の形成に影響することを突き止め昀適条件を見出した。0~15MPa、300から350℃のあいだで検討し、3.24mm角のSiCチップで2500サイクル、11mm角チップで1000サイクルの熱衝撃試験に耐えることを実証した。またシンタードAgはAlワイヤにかわるワイヤレス接続としても適用でき、パッケージの信頼性を上げ寄生インダクタンスを抑制できる。これらの結果に基づき、1000サイクルの高温動作を可能とする新ワイヤレスパッケージ技術を確立した。

(3) 応 用

(1) パナソニックから家電用の600V 75AのSiCパワーモジュールの発表がなされた。SiC-MOSFETを用いておりSi-IGBTに比べて一桁スイッチング周波数が高いため、受動コイルと平滑コンデンサの小型化やリップル電流の抑制ができる。課題はモジュールのインダクタンスの抑制である。モジュールは25x25x4.1mmのサイズであり、ハーフブリッヂ2組を内蔵している。ループインダクタンスは20nH以下であり耐熱温度が200℃であり、熱抵抗は0.6K/Wである。
 このパワーモジュールを用いて太陽電池のパワーコンディショナー用のブースト回路(200Vdc入力を300Vdc出力に昇圧)を構成した。電源端子とグランド端子間のコンデンサC1を0.22μFとし、安全動作の点からゲート抵抗を10Ωとした場合ターンオフ損失を低減でき、20kHでの効率約99.2%、50kHzでの効率約98.9%を達成した。

(2) 埼玉大学から電気自動車の双方向ワイヤレス電力伝達システム用の高効率SiCインバータ・レクチファイアーが発表された。スイッチング素子としてSiC-MOSFETを用いるとレクチファイアーとしての機能時にはMOSFETの内蔵pnボディダイオードが通電素子として動作する。SiCのpnダイオードはSiのpnダイオードよりもVfが大きいために損失が大きくなってしまう。このためローム社作製のVfをより小さくできるSiCトレンチSBDを3素子並列接続して、SiC-MOSFETに逆並列接続して用いた。
 周波数30kHzで出力1.5kWのインバータ・レクチファイアー回路動作をした場合、インバータとして機能時の効率は、SiC-MOSFET構成では99.2%、(SiC-MOSFET+トレンチSiC-SBD)構成では99.2%、Si-IGBT構成では98.5%であり、SiC-MOSFETの優位性が示された。また、レクチファイアーとしての機能時の効率は、SiC-MOSFET構成では95.2%、(SiC-MOSFET+トレンチSiC-SBD)構成では96.9%、Si-IGBT構成では97.3%であった。従って、SiC-MOSFETとトレンチSiC-SBDの組合せを用いても効率が0.4%低かった。これはトレンチSBDを3素子並列接続しSiC-MOSFETに逆並列接続する際の配線抵抗が大きいことによる。インバータ・レクチファイアーとしてフルの機能をさせると(SiC-MOSFET+トレンチSiC-SBD)構成が最も効率が高くできる。

以 上