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ICSCRM 2013 雑感

SiCアライアンス 広報委員長
荒井和雄

先日(9月26日~10月4日)、ICSCRM2013が宮崎シーガイアで650人を越える学会参加者(+展示関係者~140人)を得て開かれた。出席したので、見聞した範囲について、管見をのべる。

 

あいさつ&基調講演

 応用物理学会からは鳥海副会長から「応物学会はパワーエレを重要なターゲットにしている」とのメッセージをいただいた。「SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会」が「先進パワー半導体研究会」に改組(2013.1)されたのはこの流れにある(さらに2014.1からは分科会に格上げ)。

 

 総合科学技術会議の議員に就任された久間氏が議員と三菱電機の両方の立場で、エネルギー戦略の中でのSiCパワーデバイスへの期待を述べられた。最近の三菱電機の成果はそれを裏打ちするものであるが、これからの方向性としては、デバイスだけでなく、システムデザインとそれを可能とするパッケージングや信頼性、診断技術・ライフサイクルなどの総合力が決め手となるとの指摘は納得が行くものであった。余談だが、会場の三菱電機のブースでも電気学会産業応用でも、地下鉄銀座線で実証されたSiCインバータによる損失の低減やパワー密度の向上は部品やモータ等の総合的最適化で達成されたものであると強調されていた。

 

 レンセラーポリテクノChow教授のSiCとGaNのパワーデバイスとしての立ち位置と比較に関する講演では、あまり新しい視点はなかったように思う。6インチSi上でのGaNデバイス製造の見通し(APEC2013パナソニック)もあって、横型素子として多様な展開が期待されるGaNへの思いが強いと感じた。

 

 もう一件は最終日に、鉄道技研(RTRI)の兎束・正田氏による高速鉄道応用からの期待が述べられた。この分野、世界的には発展期にあるとおもうが、世界に打ってでる日本の特長はなにかを考えてしまう。期待のマグレブは、「パワー供給はすべて地上で行われるので、スペース的制約は少なく、SiCの売りの一つのパワー密度向上効果はあまり切り札とならない」とのコメントが印象に残った。しかし、乗客当たりのエネルギー消費が鉄道4:自動車14:航空機17、であることは、社会の在り方との関係で、記憶にとどめたい。

 

以下、報告者の関心にそって気のついたことを述べる。

 

ウエハ開発の様々なアプローチ

 Creeに代表される市販のウエハの主流である4インチ、4度オフの品質(マイクロパイプ・BPD密度など)はデバイスメーカーが腰をあげるにレベルにはなってきていると思う。6インチも急激に立ち上がってきている(Cree)。もう一つにはエピ技術が向上して、キラー欠陥の密度を下げられる技術が開発されてきたためである。

 

 次世代の研究開発としては、黒鉛閉鎖ルツボで成長される昇華法の限界を踏まえて、将来を見た新成長技術が主として日本から発信されている。確かに6インチRAF法によるウエハでは2インチで期待されたほど欠陥が減っていないようで、閉鎖ルツボ内で行われる昇華法での長尺化の難しさがうかがえた(Invited Poster、FUPET、デンソー、昭和電工、トヨタ中研)。

 

 熱平衡成長による低欠陥化を期待しての溶液成長では、セッションが作れるほどになり、トヨタ&新日鐵住金、名大、AIST、デンソーなどの発表があった。成長速度は毎時数百ミクロンから数ミリオーダは可能のようで、低抵抗化も期待できそうだが(トヨタ)、ポスター発表も含め、まだ多くの物理・化学が必要と感じた。成長面(界面)の実時間観察・制御がポイントのように思える(3C-SiC低温度成長だが、東大から金属顕微鏡観察の報告があった)。

 

 リンチョピン大に始まる高温ガスソース成長(HTCVD)ではHClガスの活用で毎時ミリオーダの成長が見えてきた(電中研、デンソー)。この場合、X-線による成長面の観察が行われている。デバイスの性能が上がってくると基板の電気抵抗が気になる。高ドープによる低抵抗化(AIST)やSi-IGBT にならったウエハの薄化(ローム、三菱、阪大など)が実用上は重要な技術となってきたと思える。

 

 おやっと思ったのは、スマートカットが新接合技術(AIST)でよみがえり、使えそうだとの京大と日本発?ベンチャー(SICOX)等からの報告である。どんな展開をみせるか?!ウエハコストの低減には切断・研磨の加工技術の高度化が重要だが、マルチワイヤー(FUPET他)だけでなく放電加工などの新技術も進められている(三菱、中部大、FUPET、デンソー、阪大…)。

 

 エピ成長は炉のタイプに強く依存するが、6インチまでのエピ膜のエピ成長炉は数タイプに集約されてきたようである。コーニングやクリーからwarm-wallコンセプトの6インチエピウエハ(X6枚)の現状が報告された。TELやLPEなどもあるが、いずれも、確実に進歩している。膜質は無論、コスト低減のための、成長速度の向上、ターンアラウンド時間短縮が勝負となる。研究開発としては、一枚成長の縦型炉での高耐デバイス用の厚膜成長について電中研中心でまとめの報告(Invited)があった。HClガスの活用と基板の高速回転で高速成長・高品質・厚膜を達成している。ステップバンチングの抑制はエピ共通の重要な課題であり、低オフ角エピ成長(FUPETなど)へとつながって行く。エピ成長モードをシミュレートする手法(AIST)も重要と思った(第一原理計算:東大)。エピ技術もデバイス性能との付き合わせでチューニングする時代に入った。

 

デバイスの進展と課題

 SBDの実用化は定着してきた。トップ性能はトレンチタイプ・基板薄化で、極限まで来ている(ローム)。製品としての競争は激しくなるのではないだろうか。

 

 MOSデバイス実用化という点では、Creeが先陣を切ったが、ロームそして三菱電機が急追、性能では先行しているとの印象をもった(各社のHP参照)。少々甘い考えかもしれないが、600V、1200Vと1.7 kV耐圧までは数百Aのモジュールも作製され、SiCデバイスによる損失の低減と動作周波数の高周波化によるモジュール体積の低減(パワー密度の向上)により一応、行く着くとこまで来たのではないだろうか。信頼性の一層の向上と、量産性や電流密度の向上、エピウエハ・プロセスのコストなどのへの目配りが必要となる段階に来たように思われる。

 

 コスト低減につながるボディダイオードの活用でも長時間テスト試験で問題がなさそうだとの報告もあった(GE)。エピの工夫によるBPD低減が必要条件であることは間違いない(三菱電機など)。ダイオードを新デバイス構造として組み込んだもの(パナソニック)や、ポリSi/SiCヘテロダイオードをインテグレートした例は面白い(日産)。終端構造のサイズ低減の工夫(住友電工、三菱電機など)も重要になってきているようだ。

 

 TDDBの信頼性は本質的には実用化のレベルをクリヤーしている(Cree)が、歩留まりとの関係では、まだまだ課題がある。エピ表面欠陥とTDDB信頼性についての詳細な報告(Invited、FUPET)があり、エピ技術へのフィードバックが期待される。

 

 MOS酸化膜界面のパッシベーションについては一段落で、新規な報告はなかったように思う。MOSチャネル移動度の向上とVthシフトの信頼性は、ホットな課題である(US陸軍からのInvited報告は米国の債務上限問題のあおりかキャンセル)。それらと関連する界面準位のそもそも適切な測定・評価はなにかという課題がある。簡便なH-L法では低く見積もり過ぎている。原理に基づく界面準位評価法の提案(Invited、AIST、京大)と超高周波CV測定や低温DLTS(AIST、東芝、京大)で顕在化した高密度な浅い準位の起因の解明はこれからだ。第一原理計算からのアプローチ(筑波大、名大など)もある。界面準位欠陥の物理的起源の解明は難しい課題だが、高感度にスピン欠陥を検出するEDMRは有効な手段であり、今後の展開を期待したい(筑波大、AIST、原子力機構)。面方位依存性がヒントになる可能性がある。特異な結晶面を使ったV溝MOSでは比較的容易に高移動度を得ている(住電、奈良先端大)

 

 MOS界面のようなデリケートな課題を持たないJFETでは応用展開が進んでいる。JFETを使った高効率インバータ/コンバータについての総合報告があった(Invited、KTHなど)。ユニポーラデバイスの利点を生かしたデバイスの直並列化、モジュラーマルチレベル化、ゲートドライブ技術がポイントとなる。EMIの抑制は高速スイッチの共通の課題だ。日本からは低オン抵抗が決め手ののブレーカー応用(AIST、NTT-F、千葉大)、サーバー応用(日立)があり、限られた使い方であっても、実用が始まるのではないかと思う。高耐圧(3kV)への展開もある(AIST)。JFET商品化のパイオニアであるインフィニオンは 1200→650V と品ぞろえを広げている。低損失で、ボディダイオードが使えるだけSi-Cool MOSより利用勝手が良いかもしれないとの見方もある。SiCでもイオン注入とエピの繰り返しでスーパージャンクション構造をつくる研究が始まった(Invited Poster、FUPET、AIST)。プロセスが確立されれば、色々なデバイスへの展開が期待できる。

 

 高耐圧デバイスの2オーラルセッションが設けられたのも今回の会議の特徴であろうか? 10kV超の高耐圧デバイスはCreeの独壇場で、現状と戦略が述べられた(Cree、USエネルギー省、FREEDM、US陸軍研究所)。共著者の所属が示すように、産業用モータのインバータ化したときの省エネ効果の試算も掲げてはいるものの、兵器への応用に始まり、再生可能エネルギー導入による新電力ネットワークへの応用が目的と考えられる。ウエハ基板の品質の向上とともに、10-20kVクラスのGTO、IGBT、PiNダイオードなどの種々のデバイスが開発されており、モジュールのデモも行われている。スイッチング特性がより良いと期待されるn-IGBTの改良の報告もあった(Cree、NCSU)。しかしながら、歩留まりが課題となる民生応用には、まだまだ、材料の改良が必要な段階にあるという。 FREEDMのAlex Huang教授はSiCのサイリスタの開発とその20kV超の電子ブレーカーの応用を示した。数百Vの低電圧ではあるが、電子トランス(SST)のデモも示した。現在Big Projectの提案をしていると言っていた。

 

 日本では最先端プロジェクト(Firstプログラム)によって、高耐圧デバイスの開発が急速に立ち上がっている。ダイオードでは終端構造の設計、厚膜エピ、酸化によるライフタイムの向上により、26.5kV耐圧の低抵抗デバイスを試作している(京大)。IGBTでも19kV耐圧のp-IGBTの動作を確認している(AIST、新日本無線、富士電機)。この12月開催のIEDMでは、基礎技術をすべて投入したn-IGBTの世界レベルの成果の発表があると聞いている。期待したい。特筆すべきことは、インパクトイオン化係数の値を正確にもとめたことである(Invited 京大)。これまでの報告の実験条件の不備を取り除き、バイポーラ素子の設計に不可欠なデータをほば、確定した。

 

応用展開に向けて

 最終日にインフィニオンのDr.P.Friedrichsが、SiCデバイスにおいて電流密度を高めるにはなにが必要であるかを概説した(Invited)。デバイスが低損失であることは重要だが、それだけではダメで、発熱は避けられないのだから、熱マネージメントが極めて重要になる。また、動的挙動への考慮も重要で、オン抵抗をさげるためにチップ厚を減らせば、熱容量が減ってサージパルスには弱くなる、チップサイズが小さくなれば、熱抵抗は非線形的に増大する(SiCのケースに該当)、ワイヤーボンディングはパワーサイクルに弱い、デバイスを高温にすれば桁で信頼性が落ちる可能性がある等などモジュール化技術と関係するパワー密度の決め手になる色々な要素を紹介した。デバイスとモジュール、変換器の技術連携があって、初めてSiCのデバイスを生かせることになる。一般には、高効率と高パワー密度の実現はトレードオフ関係にあり、熱マネージメントの飛躍的発展がもとめられよう。

 

 余談だが、参考として、下図左にETHのKohler教授の提案された有名な図を示す。パワーエレクトロニクスの発展のためには、期待される性能間のトレードオフ関係をいかに乗り越えて、パワーエレクトロニクスのパフォーマンスが進展して行くかが示されている。新規参入のSiCにはさらなるコストパフォーマンスのきつい壁がある。下図右には、私なりに、期待する普及への戦略を描いてみた。技術と製品化の両方の戦略を実行できる点で、総合電機メーカーが有利ではある。しかしながら、パワーエレの技術領域が広いことを考えると、日本でもベンチャーへの期待も大きい。米国では元GEの研究者がSiファンドリーを使って優秀なMOSデバイスを作って発表している(Monolith Semiconductor Inc.)。モジュールでは、ノーマリーオンJFETの上にSi-MOSをスタックしてモジュール化して200℃動作を実証した例(United Silicon Carbide)などある。チップが出回ってくれば色々なモジュラー化などのアイデアがでてくるものと期待したい。

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まとめとしての雑感

 久々に国際会議に出席し、かなり熱心に見聞はした。材料とデバイスは、全体的に着実な進展をしており、課題は詳細検討の段階に入ってきていて、その分、目新しさは少なかったように思える。そのためか、興味にしたがって、やや傍流への言及が多かった気もするが、お許し願いたい。

 「Firstプログラム」と「新材料プログラム」という2つの国プロが走っていることもあり、日本からの発表は、質・量とも他を圧倒しているように思えた。水面下にある米国軍事応用開発を考えると、今がチャンスと思って、圧倒的技術優位性を構築してほしい。

 日本におけるパワーエレクトロニクス研究開発はSiCを中心に長期に渡って国から支援がおこなわれている。Infineonのパワーデバイス用300mmウエハプロジェクトの動きを知って、Siデバイスのパワーエレクトロニクスは心配ないか、とつい思ってしまった。企業のパワ-エレの幹部の方に不躾に聞いてみたところ「どちらでも勝つ」との力強い返事に安堵した会議でもあった。

追記
 Erlangen大のG.Pensl先生が会議の直前に亡くなられ、追悼のセッションが持たれた。10年ほど前に訪問した際、列車を乗り過ごしてしまい、駅に迎えに来てくれた先生を待ちぼうけさせたしまった。それでも、翌日、暖かく歓迎してくれた。冥福をお祈りいたします。

 

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会場の入り口。注目は、筆者の後ろのSponsors for Events and Kits のトップに三菱電機が見える。確かに大きなブースでした。