SiCに関する技術情報
ソフトリカバリー
ダイオードの逆回復特性のひとつ。順方向バイアスから逆方向バイアスへ急激に変化させたときの、低抵抗状態から高抵抗への変化時間が長い特性で、スイッチングサージの抑制に役立つ。
PN接合を持つダイオードでは、順方向バイアス時に接合に対し、P型半導体からは正孔が、N型半導体からは電子がキャリアとして流れることで電流が流れる。このときのダイオードは低抵抗(オン状態)である。逆方向バイアス時は各半導体に正孔と電子がとどまり、電流が流れない。このときのダイオードは高抵抗(オフ状態)となる。
順方向バイアスのダイオードから急激に逆方向バイアスに移行すると、ダイオードは短時間taの低抵抗状態を経て、その後、短時間tbで高抵抗に移行する。前者の時間taをジャンクションリカバリ時間、後者tbをバルクリカバリ時間と呼ぶことがあり、その合計をリカバリ時間と呼ぶ。
インバータブリッジを構成する場合、taの期間では上下アームが低抵抗となり上下短絡になる。このため、taは短いことが求められる。tbの期間はダイオード損失に直結するため、変換器効率を考慮すれば短いほうが望ましいが、極度に短いtbは、上下短絡電流の急速な遮断となるため、大きな電圧サージおよびノイズといった電気的ストレスを生じさせる。このため、適度に長い時間にする必要がある。すなわち理想的なダイオードのスイッチング特性は、短いtaと適度に長いtbを持っていることにある。
適度に長いtbの特性を持つダイオードをソフトリカバリダイオードと呼び、スイッチングサージ電圧の低減に有効である。
ショットキーバリアダイオードはPNダイオードと同じ逆回復特性を持たないが、ダイオードの接合容量が逆回復特性と似た挙動をして同様のスイッチングサージ電圧が発生することがある。ただしリカバリ時間は非常に短い。スイッチングサージ電圧を抑制する場合、回路の浮遊インダクタンスを小さくし、見かけのtaを短くすることが有効である。
- 2017年8月10日
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