SiCに関する技術情報

アノードリアクトル


サイリスタやGTOは、順バイアス電圧が印加された状態でゲート電流のパルスを与えるとターンオンする。ターンオン動作の過程において、過剰少数キャリアは、これを注入するゲート付近にまず蓄積され、そして徐々にデバイス全体に広がっていく。大面積のパワーデバイスでは、注入された過剰少数キャリアが素子全体に広がるのに数百μ秒要するものもある。過剰少数キャリアが素子全体に広がる過程において、電圧降下や電流の分布がデバイス内で不均一となり、電流の局所集中が生じやすくなる。このため、アノード電流の上昇率di/dtを最大許容値よりも小さい値に抑えなければ、素子内部で局所的な温度上昇が生じ、素子破壊に至ることがある。このdi/dtを低減するために、アノードに直列に挿入されたリアクトルをアノードリアクトルとよぶが、一種のスナバ回路である。ゲート電極付近の構造改良により、GCT以降のパワーデバイスではアノードリアクトルが不要となってきている。

(舟木 剛)