今日（11日）は、枚方の津田にある「イオンテクノセンター（ITC）」を訪問して、いろいろ意見交換をした。このITCは、ここ6、7年黒字続きという。喜ばしいことだ。行きがけは小雨だったが、帰りには西日が射していた。

　1978年頃、SiC半導体の青色LEDの開発を命じられた。SiCと云えば、研磨剤とか避雷針に使われる材料くらいは思いついた。こんな材料で青色LEDができるらしい。一からの勉強が始まった。まず、この結晶は、どのような構造をしているのか？　SiCの結晶は、Si原子とCの原子で出来ており、早速、分子模型を使って、立方晶（3C）、六方晶（4H、6H）、菱面体晶（15R）を組み立てた。それぞれを眺めていると、いつの間にか、2原子の織りなす世界を"美しい"と思うようになった。

　SiCには、様々な結晶形があり、それをポリタイプと称し、その数は200種以上という。現実に半導体として利用できるのは、3C・4H、6Hタイプのようだが、他の材料で、2原子の組み合わせによる、このようなものは他に見られない。SiCはユニークで、しかも、SiCの結晶は約12％のイオン性があるという。Si原子の最外殻の電子は、C原子に引っ張られて、Siはプラス（陽）に、Cはマイナス状態（陰）にある。電場は、結晶空間全体に広がっている。基板表面には結晶の本質（配列により生じるポテンシャル）が現れており、（0001）Siおよび（000-1）C面上の結晶成長なら、4H、6Hあるいは15Rなどの成長を可能にしている。CVD法で基板と同一結晶成長を一義的に決めて成長させるには、表面をノーマルではなく、あえてオフ角にして、つまり基板のポテンシャルをより強調させて、同一の配列の結晶成長が可能になる。そこに基板のオフ化の意味がある。

　地球上には、SiCの結晶は、ほとんど存在しないと云われている。では、宇宙では？　宇宙科学研究所に問い合わせたところ、Si-C分子のスペクトルを送って頂いた。そうか、宇宙には、Si（陽）とC（陰）が漂っているのか。

　今、パワーデバイスとして利・活用され始めた4H単結晶の場合、その基板のSi面は電気的にはプラスに、反対側のC面はマイナス状態なのだ。このSi面とC面に電極（Ti・Ni・Au）を付けて、障壁高さと金属の仕事関数の関係を調べられたのが、当時、京大の博士課程の（故）伊藤さんだった。その結果が次の式である。
　　C面：φ_B＝0.76φ_M－2.06
　　Si面：φ_B＝0.70φ_M－1.95

　シリコンやGaAsのように、表面におけるフェルミ準位の強いピンニング（ピン止め）は観られず、障壁高さは金属の仕事関数に比例して、いずれの面も"きれいな"直線だ。これは完ぺきな研究だ。伊藤さんが、これを学会で発表されたとき、この図面をFAXして欲しいと頼んだ。
　自然が織りなす様は、実に"美しい"。それを先の式のように引き出すのが研究だが、人工的に作られた結晶のSiCも結局のところ、やはり自然の一部であり、自然から逸脱した存在ではない。そして、そこには法則が観られる。

　SiCと関わって30数年。パワー用に使われる4H結晶と云えば、六方晶だ。蜂の巣、フェンス、サッカーゴールの網、大阪市内の歩道のタイルは六角形。神社仏閣に行けば、六角形が目につく。仏教では、人は日々六道（天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道）をさまようという。カラオケでは、越路吹雪のロクデナシを唄うが、これもSiCの六方形を思い浮かべて、"六であり"だ。

　飛躍するけれど、SiCを通じて、科学と東洋の哲学とが結ばれているように感じる。
科学しながら、東洋の陰陽の世界を思い浮かべれば、心にゆとりが生まれるように思う。この世は、女・男の陰陽で成り立っている。そう云えば、地球の生命体は、左手系、いわば陰のアミノ酸で生命活動をしている。先ほど打ち上げられた「はやぶさ2」のミッションの一つは、目的地で右手系アミノ酸・陽が存在するかどうかを探査することだ。宇宙には、右手系と左手系があり、それで調和している。六年後の、その帰還が待ち遠しい。

　いつの頃だったか、フト、SiC半導体には、小さな"i"が入っていることに気づいた。訪問先のITCは、大文字の"I"から始まり、SiC半導体に不純物を導入する方法にイオン（ION）注入があり、これが生業(なりわい)だ。このイオンの頭文字も"I"で始まる。弊社の設立の際、SiCの"i"を大文字の"I"にして社名「SiCセミコン」とした。何事にも、"i"あればこそかなぁ～、その"愛"も大きいほど良い。この"愛、あるいは慈愛"は、"陰陽"を包含する概念かも知れない。

　帰り道で津田の割烹"天ぷら・重"に寄った。女将さんいわく、「あんたが昔言っていたSiCの入ったエアコンを去年買ったら、電気代が4割になった。ほんとやったね。」


平成26年12月11日　(木)